虫たちの箱根越え


高校時代生物学で教わった。北海道と本州の境界つまり津軽海峡を挟んだ線で動植物相が
異なっている、これを「ブラキストン線」という。本州にも「箱根ライン」がありそうな
気がしている。

 私は22年間は、西日本で育ち、その後群馬の地に住み着き、現在に至っている。
動稙物相や気候があまりにも異なっているのには驚いている。

 本州においても動植物相の境界線があるような気がしている。箱根あたりではないかと思
う。「箱根ライン」ということになるのであろう。箱根を起点に日本海側にどのような線を
引くのか、もっと分布を調べる必要があるだろう。
 確かに箱根は地形的に、自然繁殖でその生存域を拡大するのに関所の一つになっているこ
とは十分考えられる。
 尤も、最近の著しい交通手段の発達により、それらにくっついて人為的に移動して、適地
を見つけ生存域を拡大することも多いだろう、動植物にとっても手取り速い手段である。
東京都内や千葉県南部地方もその例となるであろう。


 特に西日本ではごく普通に見かけるが、群馬で見かけない虫の例として、
「クマゼミ」、「アシダカグモ」、「クロゴキブリ」などがある。
これらの分布の境界を「箱根ライン」に置けないだろうか。


追伸 2012年8月26日 当地でついに「クマゼミ」の力強い鳴き声を初めて聞くことができた。  下欄  クマゼミ 追伸参照

 

クロゴキブリ 体長4センチほどで扁平な形 夜行性

 翅は、やや透明の薄い赤茶けた油紙のような網翅である。アブラムシとも呼ばれている。

 群馬のは小型だなあと思っていた、色も茶色ぽく、おそらくまだ箱根越えはしていな
いのだろうと、ところがここ4〜5年位前から現れ、ワイフの悲鳴が聞こえるようにな
った。
なんだかこの頃は急に群馬でもクロゴキブリが主流になってきた。

 「ゴキブリホイホイ」という商品が発売された時、すごいと感心した、高校時代生物
学でゴキブリは狭い隅を移動する趨勢を持つと習った、習性を巧みに利用した商品であ
る。これでゴキブリは家の中には居なくなるかと思ったほどであった。
どっこいそうは行かなかった。

 ゴキブリ達の言い分は「俺様たちは3億年も前からほとんど姿・形を変えず幾多の超
困難を乗り越えて生き抜いて来た。生きている化石と尊敬されている。俺様たちの歴史
に比べれば、人間なんてごく僅かなものだ、そう簡単にやられてたまるものか、大体地
球的な環境が変化したとき、人間たちはいくら威張っていても真っ先に滅びるのだ、俺
たちゴキブリ様は生き抜いて見せるぜ」
といった具合であろう。

ゴキブリ

クマゼミ

 西日本ではスケッチのようなクマゼミである、夏が来ると早朝から勢いよく鳴き始める「センセンセンセン」と聞こえる。やかましいほどである。
スケッチのように、体は黒くずんぐりしていて、翅は透明で、日本で最大クラスのセミ
である。

 子供のころは、よくセミ取りをした。細くて長い竹の先に捕虫網(地方ではタマと言
っていた)を付ける。高い木に多くいる、桐の木には特に多い。木にのぼりセミの上に
タマかぶせ上下にしごくと驚いて木から垂直に飛び去る、かぶさっているタマに収まる
寸法である。

 タマはセミに見えにくいのがよく、エビダマと呼ばれている直径15センチほどで、細い透明な釣り糸状で5ミリほどのメッシュを編んだ網が最適である。釣具店や玩具店で容易に入手できた。

 クマゼミは鳴いた後、パッと木から離れ、その際オシッコを飛ばすことが多い。
木に登り、長い竹竿のタマを右手に、左手は木の枝を握ったり木の幹を抱えたりあぶなかしい姿勢で上を見ながら、目を皿にして探しているとき、オシイコが目に入ることがある。これが目に入ると目がつぶれるという迷信があり、子供たちは信じていた。

あわてて木から降り水場を求めて目を洗う。蝉採りはやめて家に走って帰り、もう一度よく洗う。

 日本におけるクマゼミの分布は複雑だそうで、簡単に「箱根ライン」のよな線引きはできないようである。寒冷地では生存できないことは分かっている。
関東地方でも「やませ」といわれる北東の冷たい風の吹く地域
では生存出来ないと言わ
れているが、温暖化がそれを補い、そのうち群馬でも「センセンセンセン」が聞かれる
かもしれない。


追伸 2011年8月7日

 本日の朝日新聞天声人語によると、筆者の故郷東海地方ではクマゼミは大変珍しく希少価値があったそうで「アブラゼミを佃煮にするほど捕ってもクマゼミ一匹の光栄には遠く及ばなかった・・・近年は異変が起きている。北へ北へとで勢力を広げて、北海道でも見つかった報告があるそうだ。」と述べている。 少し前までは、どうやら東海地方が北限であったようだ。
 今、当地群馬太田地方でも、蝉しぐれの時期となったが、まだクマゼミの声は聞いていない、そのうち聞かれることだろう。


追伸 2012年8月26・27日 ついにクマゼミの声が聞こえた 

 8月末というのに、日照り続きで毎日35度を超す猛暑が続いている。
今日8月27日と28日の朝、ミイミイゼミの暑さが迫ってくるような蝉しぐれのなか、
短い時間であったが、一匹のクマゼミの力強い鳴き声「センセンセン」が聞かれた。
「センセンセンが長く続き、その後「ジジジジジ」でしめくくる。
蝉捕りのとき、この「ジジジジジ」が終わった瞬間、パットと木から離れその時オシッコを飛ばすことがある。これが目に入ると先述の迷信を信じているので大変な騒ぎとなる訳である。
以降は気を付けている、毎日というわけではないが、ほんの一匹か二匹くらいであろう短い時間の鳴き声を聞いている。ついに北関東まで来たかと、感無量である。今の子供は蝉捕りをしないが、私にとってはこの地では、「アブラゼミを佃煮にするほど捕ってもクマゼミ一匹の光栄には遠く及ばなかった」を深く感じる者である。

クマゼミ

 全長7センチほど

 胴体は黒でずんぐりしている 翅は透明、

 早朝大きな声で元気に鳴く

アシダカグモ

 紀南州地方では、「イエオニグモ」と呼んでいる、この名を持った別種のクモがいるの
でややこしくなるが、アシダカグモのことである。
 

アシダカグモ

スケッチのような、足をのばすと12センチほどあり、丁度CDくらいの大きさで
大きいのははみでるだろう。歩行クモとしては日本最大。夜行性。

 巣を張らなく、長い脚で素早く走り、あるいは跳躍して獲物をしとめる。

雌は、腹に卵嚢と呼ばれる卵の入った碁石のような形の蜘糸を巻きつけ編んだ白い嚢を補助肢で抱えている、胴体は3センチほどあり雄よりずんぐりしていてひと回り大きい。

 当時紀州の家では夜天井に張り付いているのをいつも見ていた。光線の具合で目が
光っていることもあり無気味である。蠅たたきで叩こうとしたとき、母から「殺しては
なりません、アマ(ゴキブリ)をよく捕るし、鼠の小さいのも捕る。気持ちがわるい
けど役にたちます。人には害をあたません」。とさとされたことを覚えている。

 しかし、もの心がついた時からいつも見ていると、慣れてしまうであろうが、
初めて見た人は、びっくり仰天するだろう。

 
少年時代、夏の大掃除で押入れの担当を言いつかったとき、特に布団を収納している
押入れは、布団を一旦外に出し、清掃して、拭き掃除をして、乾燥したら新聞紙を敷く、
これが手順である,
かがんだ苦しい姿勢で行うが奥のほうから、アシダカグモが飛び出してきて、頭や背中を踏み台に飛び逃げたり、手先から肩をつたって飛び逃げることがよくある。さすがの私も不意をつかれ、「ヒェー」と悲鳴をあげたこともあった。

 兄は平気で手の平で素早く抑えつまみあげるが、つまみ方が悪いと咬まれることがある
らしい、
毒グモではないので心配はいらない。このようなことをしないと人を咬もことは
ない。

 ゴキブリの天敵である。ゴキブリが現れると飛び掛って捕えるところをよく見かけた。
面白い習性を持っていて、ゴキブリをしとめても、別のゴキブリが現れるとそれを捨てて
飛び掛かるそうで、ゴキブリ退治には非常に強力である。家に3〜4匹ほど居るとゴキブ
リはいなくなると言われている。


 高校時代、夜遅く、部屋の小窓を覗いた時、光に集まって窓ガラスの外側にたくさんの
小さな虫がくっ付いていた。その虫を10センチほどのヤモリがコツンコツンといった感
じでつつきながら食べていた(このようなヤモリも群馬では見たことがない、箱根越えを
していないのであろうか)。アシダカグモがそのヤモリを中心にぐるっぐるっと横歩きの
よな形で周囲を回りながら狙っていた。いつ飛び掛かるのかと固唾をのんで眺めていた。
一時間ほど眺めていただろうか、同じ動作をずっと続けるだけであった、とうとう根負け
して眠りに就いたことを覚えている。

 今のところ、静岡県の三島市で見たのが最東側であった、北側は富山県黒部市で見たと
報告されている、これも「箱根ライン」が目安となるのであろうか。東京都内でもゴキブ
リのいるところには十分生存できると思う。

千葉県の方にも聞いてみたい、もともと生存していたのかも知れない。

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 群馬では写真のような大型のゴキブリ(クロゴキブリだと思う)は見たこともなかった。
もっと小型で茶色っぽい。台所の女性から非常に嫌らわれている虫である。
平べったい体をうまく生かして狭い隙間をくぐり抜け色々な場所に現れる。ゴキブリの季節の到来である。

生まれ育った南紀州では家の中のゴキブリといえばこれであるしかしゴキブリという人はいなかった、「アマ」と言っていた、最近紀州に帰ったとき、姪が「アマ」と呼んだので、今でも使われているのかと驚いた。西日本では「アマメ」と言う地方もあるそうだ。駆除剤に「ゴキブリ」と全国統一の名称で発売されているので、まもなく地方の呼び名はなくなるであろう。

台所に現れたクロゴキブリ