散歩の途中 神社の置石
珍しい神社の置石
散歩の途中いつも近くの神社に立ち寄る。村社高林神社と石柱に刻まれている。鎮守の森に囲まれ大変静かである。神鈴を鳴らす、空気の振動が静寂の中に広がってゆく。
2拍2礼でお参りをする。
神社境内に周囲3メートルほどの大変珍しい置石を発見した。二層に分かれており、上部は緑色の三波川系結晶片岩でる。下部は白色の石灰岩である、結晶質化していて方解石に近い、よく観察すると示準化石のフズリナと思われる痕跡があり、秩父帯の古生代石灰岩と考えている。
見事に地層の不整合が現れている。博物館に展示しておきたいくらいである。
誰が寄進したのであろうか、会って話を伺いたいがかなわないであろう。
石灰岩は、はるか南方の浅瀬で古生代に生まれた珊瑚礁の名残である、プレートテクトニクス理論(注)に則り気の遠くなるような時間をかけてはるばる日本列島に辿り着いたのである。
結晶片岩は中生代後期から形成されたものであろう、当時一帯は海であり、陸から流れ出した土砂や火山灰が海洋から来た石灰岩の上に堆積し、やはりプレートテクトニクス理論により、地下10,000メートルは優に超える深さに引きずり込まれ、堆積物は巨大な圧力と熱により広域変成を受け結晶片岩となった。これらが隆起して山塊となり、その後浸食を受け奇跡的にこのような姿で我々の前に姿を現したのである。
通る度に足を止め、眺め、手で触れては地球の壮大な地殻変動の歴史とドラマを実感しつつ
日本列島の生い立ちや特徴について想像をめぐらし感動しているしだいである。
注 プレートテクトニクス理論 (興味のお持ちの方はご一読ください)
プレートが対流のように流動しているので、いずれプレート間で衝突が起こる。大陸プレートと海洋プレートが衝突した時は、大陸プレートの方が比重が小さいので海洋プレートがもぐり込む。もぐり込みの面には窪みができる、これが海溝である。
このとき大陸側から海中に運ばれ堆積した堆積物と海洋プレートによって運ばれてきた海山やサンゴ礁の石灰岩それに海底の堆積物が大陸側にくっ付く、これを付加体という。付加体は大陸プレート面に沿った山脈を形成する、基本的には火山地帯となる。環太平洋火山脈はその典型で太平洋ファイアーリングと呼ばれる超巨大火山地震帯を構成している。
衝突面(海溝付近)では、もぐり込む海洋プレートとの摩擦で巨大な歪が発生し続ける、歪は限界に達した時に、瞬間的に開放される。これがプレート型の地震である。歪が解消された時から再び歪の蓄積が始まり、周期的に地震が繰り返されることになる。
一方陸側では、もぐり込みが深くなって行くと圧力と摩擦が増大し発熱量が大きくなる、更にもぐり込む上層部堆積物に多く含まれる水分も関係して付近の岩石質が溶け(マグマという)
マグマ溜りができる、地上に噴出した場合は火山となり噴出物は玄武岩や安山岩系の火成岩となる、噴出せずにゆっくり冷え固まった場合は花崗岩系統の深成岩となる。
日本列島は、太平洋ファイアーリングの真上にあり、世界でも例を見ないプレートの衝突地帯である。世界トップクラスの宿命的な地震・火山地帯となっている。
大陸プレートと大陸プレートの衝突 アルプス山脈 ヒマラヤ山脈
大陸プレートと大陸プレートが衝突した時は、プレート上の陸地や海底堆積物を盛り上げる、
このようにして出来たアルプス山脈やヒマラヤ山脈はよく知られた例である。アルプスヒマラヤ型造山運動と呼ばれることがある。ヒマラヤ山脈は現在も活発に活動している。
山頂付近の盛り上がり部分で海洋生物の化石が見られるのもこのような理由である。
プレートとプレートとのすれ違い サンアンドレアス断層
プレート間の衝突ではなく、互いに並行方向に接してすれ違う場合もある。
例として、米国西側の巨大断層「サンアンドレアス断層」がよく知られている。
これは、北米プレートと太平洋プレートが米国西部では、互いに反対方向にすれ違うように
接して移動しており、その境界面に沿って1,000キロメートルを超える巨大な横ずれ方向の断層(トランスフォーム断層)が出来たのである。この両プレートは米国北部からは衝突型になっていてカリフォルニア州北部でマウントシャスターのような火山を形成し環太平洋火山帯の一部を構成している、この両巨大プレートは日本列島の北東部まで達しており、後述のように日本の北東地域では衝突型となっている。
このようなことを考えると、環太平洋火山帯はサンアンドレアス断層の部分でとぎれているように思える。
ただ、これと平行に東部に巨大なロッキー山脈があるが、成因についてはよく解明されていないようだが、中生代末期から新生代初期にかけて、古い形の北米プレートが存在して、これによる造山運動により形成されたという説もある。どうやらこの部分のロッキー山脈は環太平洋火山帯ではないようである。
超大陸の出現 パンゲア
大陸プレートは、そのプレートの流れに従って移動していることになると、ある時点で大陸どうしが衝突し、合体して一つにまとまる可能性がある。この時地球上の陸地はたった一つということになる。これが超大陸である。地球の歴史上3回確認されている。新しい順に「パンゲア」「ロデニア」「ヌーナ」と名付けられている。もっと数多く発見されるかもしれない。
現時点の地球上の大陸は海を挟んで分散しているが、中生代には超大陸パンゲアが存在し、それが分裂離散して、また離散した古代インド大陸のように、ユーラシア大陸に衝突合体(この時衝突面がせり上がり先述のヒマラヤ山脈を形成している)したりしながら現在のような海洋と大陸の分布となっている。今の姿である。これらもいずれは一つの超大陸にまとまるとことが予想されている。
このようなプレートテクトニクス理論を最初に唱えたのはドイツの気象学者ウエゲナーであった。地球儀上の大陸を動かすとジグソーパズルのよう合うことを発見し、理論展開をしてこれを超大陸パンゲアと名付けた。その証拠を多く挙げ、学説を発表したが、あまりにも奇抜な理論であり、またプレートを動かすエネールギーの説明ができなかったため認められなかった。ウエゲナーは更なる証拠固めのためグリーンランドを探検中1930年50歳で亡くなった。
日本列島とプレート
日本列島は、2枚の大陸プレートに乗っている。1つは北アメリカプレートで、これにはオホーツク海・北海道・東北・東日本の各陸地が、もう1つはユーラシアプレートで、これには日本海と西日本の陸地が乗っている。(オホーツク海と日本海は大陸プレートの一部)。
北アメリカとユーラシの両大陸プレートの境界は、フォッサマグナ呼ばれる断層帯である、これを境に日本列島は折り曲げられた形となっている。フォサマグナは、実際は線上ではなくU字型の断層地帯で、西側はよく知られた糸魚川―静岡ラインであり、東側は第三期第四期の地層に埋まっていてよく見えないが、千葉―小出―柏崎、最近の説では小出から北東方向の新発田まで延びているようである。U字型の底の部分は活発な火山地帯となっている。北から焼山、妙高山、草津白根山、浅間山、八ヶ岳、富士山、箱根山 等である。
一方日本列島の太平洋側の海洋は、2枚の海洋プレート、1つは太平洋プレートともう1つはフィリピン海プレートに接している。
フォッサマグナを境に、北東側は北アメリカ大陸プレートに太平洋海洋プレートが、西側はユーラシア大陸プレートにフィリピン海海洋プレートが衝突して、それぞれの海洋プレートが大陸プレート側にもぐり込んでいる。いずれも巨大地震地帯となっている。
このように日本列島上では、4枚のプレートが衝突し合っている世界でも非常にまれな陸地である。世界でトップクラスの宿命的な巨大地震・火山地帯なのである。
2011年3月11日 東日本大地震
北アメリカ大陸プレートに太平洋海洋プレートがもぐり込でいる境界面で起きたマグニチュード9.0
の地震である。プレート面に沿って、南北500キロ東西200キロに達する世界でもまれな巨大なプレート型地震とそれに伴った巨大津波であった。
震源地付近の境界面のズレ(断層)は30メートル以上。また北アメリカプレートが太平洋方向にせり出した距離は、震源地の海溝付近で50メートル以上の観測データ(2004年スマトラ島沖のマグニチュード9.1
でさえ20メートルであった)が得られ、専門家は信じ難いと発言している、石巻市の位置も東に5メートルほど移動したそうである。
このような大きなズレが発生すると広い地域に歪を残し、余震が頻繁に起こることとなり、安定するまでに1年単位あるいはそれ以上の長期間を要する。
この地方では、マグニチュード7.5クラスの地震は、40〜50年周期で繰り返し起きている。しかしマグニチュード9クラスは予想をはるかに超えていたそうであったが、平安初期貞観時代に同様な巨大地震と津波があったと記録に残っている、その時の津波は20メートルに達したそうである。このような巨大規模は約1100年ぶりということになる。
平成7年の阪神淡路大地震の1450倍、大正12年の関東大地震の45倍と言われ、その規模の大きさが伺われる。但し阪神淡路地震や平成16年の中越大地震は、プレート型ではなく活断層の動きによるもので、直下型とも言われ範囲は局所的である、プレート型より規模は小さいが、ゆれの大きさにはそれほどの変りがないことも多くあり、局所的に甚大な被害をもたらす。
結晶片岩
日本列島は、大陸プレートと海洋プレートが衝突し合い、海洋プレートがもぐり込んでいる最前線である。このとき先述の大陸側から海中に運ばれ堆積した堆積物と海洋プレートによって運ばれてきた海山やサンゴ礁の石灰岩それに海底の堆積物が大陸側にくっつき付加体を形成する、付加体の一部は海洋プレートに深く引きずり込まれる、10,000メートルを優に超える深さに達したであろう。その時の圧力と熱によりプレート面に沿って広域変成を受け変成岩となる、結晶片岩はその代表例である。衝突しているプレートの陸側面上には、付加体は絶え間なく供給されるので、一部の変成岩は押し上げられ地上に現れ造山運動となって山脈を形成する、一部はプレートに引きずりこまれ、プレートと共に地球の奥深く進み、ついに熱で溶解して消滅する。
これがプレートの消滅である。消滅した部分は再びプレートの材料となって海嶺から噴出したり、ハワイ諸島のような海底火山からの噴出物となる。循環が形成される。循環周期のおおよその見当は2億年以上といったところであろうか。
日本列島は付加体を屋台骨とした巨大な山脈である、山の高さは海抜で測るが、地形的には基盤から測るのが妥当である。例えば海中の山(海山)は海抜では測れない。日本列島は海洋プレートが沈み込むところ(前述の窪みとなっている「海溝」)からそびえ立っている。基盤から測れば高さ9,000メートル以上、長さ2,000キロメートルに達する巨大山脈なのである。
三波川系結晶片岩は典型的な緑色の結晶片岩で、群馬県の三波川地方で豊富に見られ、それをもとに研究されたので、地名をとって名付けられた。庭石の三波石は有名である。
三波川系結晶片岩帯は、千葉県北東部−秩父長瀞−三波川−諏訪湖−伊良湖崎−紀伊半島北部横断−四国北部横断−九州横断−鹿児島県西部と1,000キロメートル以上も続き、更に、海底で南西諸島へと続く巨大な構造線(中央構造線といわれる断層)を形成している。日本列島の屋台骨でもある。また当時(中生代後期)の日本列島の海岸線を彷彿とさせるものでもある。
以上 2011年4月15日