雄大・広大・荒っぽい、スケールの大きいアリゾナの砂漠に立って、緑豊かな箱庭のような日本の景色や、折詰や幕の内弁当について思いを馳せらせた。

かねてから一度米国のネバタやアリゾナの砂漠を見たいと思っていた。思い切って機会をつくり、ラスベガスからグランドキャニオン、モーニュメントバレー、ペトリファイドフォレストナショナルパーク(化石の森)、フェニックスシティのコースで旅をした。

四輪駆動のビークルで、ラスベガスを早朝出発、二泊三日の旅だ。ユタ大学で日本文化を勉強された若い方が運転手兼ガイドさん、客は私たち夫婦と名古屋のご夫妻の計四人、ガイドさんも含め、道中全く同じ行動をするので随分親しくなった。

 
  砂漠には大きく3つの型がある、@砂 A岩のかけらの荒れ地 B岩地。さらさらした砂型は少ないほうで全体の
20%以下くらいであろう。アリゾナの砂漠は Aであった。毎日毎日、行けども行けどもほとんど同じような景色で広大な荒れ地が地平線まで広がっている。どこをみてもむき出しの地層が平行に走っている。水成岩であろう、地層面で広大な台地を形成しているプラトー、これが浸蝕をうけてできたメサ、更に浸蝕が進みビュートを形成しているもの、地質学的に非常に興味をそそる風景である。
地殻変動の極めて激しいまた多湿な日本では見ることのできない光景である。


  サボテンも様々な形のものが見ることができる、その圧巻は柱サボテンである、高さ10m以上直径1m程度のものもあり、近づくと迫力満点であった。ガイドさんにサボテン林に入ってみたいとお願いしたところ、道端に車を止め、あまりお勧めできませんよといったような顔つきであった。この付近はガラガラヘビやサソリ、毒トカゲの生息地である、ガラガラヘビに咬まれ救急車で運ばれ大変な治療を受けた話を後で聞いた。

サボテン以外にも多くの種類の植物が生えていて、いずれも乾燥地帯特有の防御策を施している。とげとげのあるものが多く触れると痛い。気が付くとズボンには俗称ヒッツキ虫といわれる種子がたくさんくっついていた、通りすがりの動物にくっついて種子を運ぶ植物達である、アメリカセンダングサの親分のような種子は、これが痛くて取りにくく大変苦労をした。入場を控えた方がよい場所であった、普通の服装やましては半ズボン等で入ってはならない。

  ウエスタン映画でカウボーイが革のブーツを履いたり、チャップス(サボテン等のトゲよけの革製前掛け)を付けている姿がよく見掛けるがなるほどと実感をした。

今、アリゾナ砂漠の真っただ中に立って、果しなく続く広大な荒っぽい景色を眺めていると、このような自然の中で育った人達は、どのような感性が養われ身について行くのであろうか。

日本はどうか、水と美しい緑に覆われいる。車で走るとすぐに田や畑、山や川に出会う、何と自然全体を凝縮している事か、ここと比べまるで箱庭のような風景が繰りひろげられる。

考えてみると日本人は、箱庭のような自然の中で育っている。そのような環境のなか小さな空間の中で大きな自然を表現しようとす心が育つ。日本庭園もそうだ。盆栽などもいい例だ、小さな木に古木・大樹の風格を求めている。日本独特の美意識・芸術であると思っている。
折詰の美学・幕の内の美学という言葉があるがうまい表現である。


 もう一つ、日本の自然には四季の変化がある、春夏秋冬これほどはっきりと繊細で美しく急激な変化は世界中でもまれであろう、これがまた日本人独特の美意識にも繋がり、またせかせか・せわしいせっかちな性格をつくっていると思っている。日本人は日本型北限稲作民族である。苗代、田植えは梅雨に済まさなくてはならない、夏は旺盛な雑草の草取り、台風に備えた対策、稲刈り、収穫祭、冬支度等絶えず季節・四季の変化に追われている。

自然に身をまかせ、自然をあがめ、様々な自然創造物や自然現象を神とたたえるアニミズム的な考え方が育ったのであろう。森羅万象すべてが神の対象となり、唯一絶対神を持たない訳である。

このように日本人は、自然を凝縮したような環境に育ち、繊細、時には極めて過酷な自然に接して独特の美意識・自然観が生れたと思っている。

 

  所で、このような美意識が工業製品に生かされるとどういう現象が起きるか、ある種の分野では、折詰の美学、幕の内の美学が俄然強さを発揮するであろう。

ビデオカメラ、デジタルカメラ、ブック型パソコン、多機能軽量小型携帯電話等はその典型例である、世界に比類なき強さを発揮している。

繊細さについては、ある種の凝り性にも通じている、完璧さを求め、仕上げの奇麗なそして極めて細かいところまで目がとどいた正確無比な製品となって現れるであろ。外国人の目からみると、必要な機能以外とうつることもあるだろう、鍋の底にも奇麗な仕上げを要求することにも現れる。

 

私は、特殊な分野の専用小型コンピューターの設計が仕事であった。先端技術を駆使して徹底的な小型化・軽量化を追求した機種のことを思い浮かべた。

当時として最大規模のカスタム超LSIを採用して電子部品部の超小型化設計を行い、更に狭い筐体内に発熱が大きく、音も大きいデバイスを隙間なく収納し小型化の限界を追求し、身近で使うことを考えて発生音を非常に厳しく抑えようとしたため、強力な冷却ファンが使えず、放熱と消音の設計に随分苦労をした。このシリーズは長期ベストセラーとなり傑作機であったと思っている。代理店様からも、今までは納入に2人を要していたが、この機種からは、女性インストラクターが1人で可能となり、納入時に、セットアップ、インストール、基本説明等が済ますことが出来るようになったと大変喜ばれた。

今、アリゾナ砂漠を眺めながら、ここに育った人達は、もっとおおらかで物事を大きく捉え、スケールの大きい製品開発に強い力を発揮するだろう、ビデオカメラをとって小型の極致を追求するようなことはあまりやらないであろうと。

 

アリゾナの砂漠と日本の折詰

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 以上2010年4月1日  次回更新 2011年5月予定

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