ソメイヨシノの絶滅

 今年もまた、近くの神社にソメイヨシノは咲いた。
3月は記録的な寒さに見舞われ、開花時期は遅れた。まだかまだかと気をもんでいたが、
4月に入り急に暖かくなったので、あっという間に開き、あっという間に散っていった。
わずかな期間であったが、美しさ清々しさに感動し、散ってゆくさまを惜しみ、一抹の儚さを
感じさせられる。

日本人に愛されるソメイヨシノ

 
これほど日本人に愛される花は他にはない。
各地は、標準木を定め、開花予想やいつ開花したかは全国的な規模で大きな話題となる。
南北に長く、亜熱帯から亜寒帯までを有する日本列島は、南から順に北へと開花が
進む、開花前線と名付け、テレビや新聞で大きく報道される。お花見や各地名所は
多くの人でにぎわう。

 淡く清楚な花の色。満開に咲かせ、綺麗なまま後に残さず散ってゆく。開花期間は短く、

惜しみや儚さを感じさせる。日本人の感性を凝縮しているような花である。


神社とソメイヨシノ

 私は、この神社の桜を毎年楽しみにしている。石碑には「村社高林神社」と記され、
気に入っている「置き石」がある。散歩の途中にいつも立ち寄る場所である。
 桜花は毎年毎年同じであるが、神社は壊れ続けている。最近雨漏れのためか床には
養生シートが敷かれているし、柱も相当腐りがきている。私が住み着いた40年ほど前は
まだ「命名 科奈 」といった貼り紙も見られた、「はいからな名だなあ、今の若い親達は
このような名を付けるのか、かなちゃんと呼ばれて可愛がられるのだろう、健やかに育ってほしい」このような思いが巡った。昔は年に二回祭りがあり大変に賑わったそうである。
しかし今はそのような面影はない、人々から忘れ去られた神社である。
修理はどうするのであろか、旧家の友人に聞いてみた。「頭の痛い問題」と言われた、
今のところまだ具体的な話に至っていないようだが、多分住民から寄付を募り修理する

のであろうが、簡単には行かないだろう。


ソメイヨシノの起源と絶滅

 神社のソメイヨシノは年々同じ花を咲かせている。しかし種としての絶滅は近いだろう。
近いという意味は、植物について、多くの過去に滅んだ種の生存期間の平均に比べて
という意味である。ソメイヨシノは極めて短い種の寿命と考えられる。
 一部の専門家や植木屋さんが、そろそろその兆候が現れていると発言している。
他の喬木にくらべても一世代の寿命は非常に短く、通説では60年といわれている、
100年越えるのはまれである、これは成長が速いので早く朽ちるのも一因であるが、病害
虫や環境ににも非常に弱いとされている。
種の保存能力も弱く、あと1,000年は持たないだろう。理由はクローンだけで繁殖をさせて
いるということである。

 枯れてきたら、新芽をとって接ぎ木をすればリフレシュされ、次世代の誕生となる。
人が接ぎ木を続ける限り、そう簡単には絶滅はしない。ということであろうが、そうは
ゆかない。

 ソメイヨシノは、今から300年近く前に、江戸染井(現在の駒込付近)の植木屋さんが、
新種の桜を創ろうと努力していたが、父株オオシマザクラ母株エドヒガンの交配から一本偶
然に生まれたとされており、実では増やすことが出来ない新種であった。自力で子孫を残せ
ない大木である。 従って、すべて一本の原木から、人工的に接ぎ木で増やしたクローンで
あり、たった今接ぎ木で育った苗木でも、枯れかかっている古木でも、年齢は同じというこ
とになる。 しかし、最近ソメイヨシノが他の種類の桜から受粉を受け、結実しているとい
う報告があり、その種子からどのような桜が生まれるか興味が持たれている。

 最近の遺伝子工学により、父親のオオシマザクラについては、ほぼ確定されているが、
2007の年研究者による発表によると、特定の遺伝子を基に調べた結果、母親のエドヒガンについては、エドヒガンそのものではなく近縁のコマツオトメが非常に近い、しかしまだ遺伝子に僅かな違いがある。という内容である。
 一時、研究者によりソメイヨシノの起源は、韓国済州島の「王桜」系統であるという説
が発表さた、韓国内で大きな話題となったが、その後の日米の研究機関により、最新の技
術によるDNA鑑定の結果、全く別種であることが確認されたと報告を聞いている。

300年前の親株が現存していれば、同一の遺伝子を有することになるが、そうでない場
合は、親たちが交配によって結実した結果ということになり、遺伝子の交換が行われてい
るので、全く同一の遺伝子を有する個体を見つけることは極めて困難であろう。 

 研究者は、オオシマザクラとコマツオトメを交配したら、どのような桜が生まれるのか
実験しているようで、間もなく花を咲かせるという話を聞いている。我々素人は、ソメイヨ
シノと外見上全く同じ桜が生まれるのではないかと期待している訳である。その時は、ソメ
イヨシノのリフレッシュである。

 
生命体のリフレッシュ

 生命体のリフレッシュは実に不思議である。親が滅する前に、リフレッシュされた子を誕生させる、子孫として残し、連綿として繋がって行く、種の保存である。この方法は、
原始的な生命体から高等生命体まで皆共通である。最も原始的な生命体である原核生物は、分裂や単細胞からの発芽のような形でクローンをつくり増えてゆく。しかしある時点で
クローン増殖をやめ相手(配偶者)を見つけ、合体してリフレシュをする、次の世代の誕生である。生物学で習った減数分裂・配偶子の合体、遺伝子の交換、子の誕生 全く同じプロセスである。


人類の絶滅

 このように、最も原始的な生物でさえ、配偶子の合体(遺伝子の交換)をして、子孫を
残してゆく。高等動物とされる人の細胞で、合体できなく、クローンだけで子に伝えなけ
ればならないのが唯一つ存在する。Y染色体である。そのような意味ではY染色体は原核
生物の細胞より劣っていることになる。事実クローンを繰り返してきたので、現在までに
もともと持っていた遺伝子の数の10分の1以下ににまで退化したし、形も極端に
小さくなっていることがよく知られている。近いうちにY染色体は消滅することになる。

 Y染色体は、男性を決める性染色体で、男性にだけ存在し、女性にはない。そのうち男性
は絶滅することになる。この時、今の技術でも女性のクローンをつくることが可能である
ので、女性だけの社会ができ、人類は滅亡しない、といいたいところであるが、Y染色体の中には、子宮や胎盤の形成に係る遺伝子を有しており、これは他の染色体には存在しない。子孫を残すためには、男性だけが持つY染色体は絶対に必要ということになる。

 しかし、遺伝子工学の進歩により、最近、そなに早く消滅するものではない。確かに
極端に退化はしているが、退化は10数万年以上前から止まっている。つまりY染色体は
ほとんど10数万年前と同じである。今後も同じ形が保たれることを示唆している。
といった信頼できる学説が発表されている。

 生命体の定義の一つである「同じ形態の子孫を残す」。その方法は、原始生物から
高等生物まで同じ有性生殖のメカニズムが働いていることは驚異的でありまた不思議
でならない。
 例外も多くある。数千万年にわたり現在に至るまでクローンだけで繁殖を続けている
ワムシの仲間や、哺乳類においてもY染色体が退化して無くなっているのに、雄として
立派にその役目を果たしている仲間もいる。これらは、まだ発見されていないが遺伝子的
に何らかの手段でリフレッシュするような指令系遺伝子が存在するのかもしれない。

 人に最も近い類人猿でさえ、遺伝子的に選ばれた生命力の強い雄が、多くの雌を従え
子孫を残し、強い形質が生き残る自然淘汰を繰り返し続けている。しかし人は、一般に
一夫一婦性である。このとうなことも滅亡の早道に繋がっていると唱える研究者もいる。

 現在、地球上に非常に多くの種が存在している。しかし過去に現れて絶滅した種は
99%を超えているといわれている。現存の種もいずれ多くは絶滅することだろう。
人としても例外ではない。数万年後か、数10万年後か、その兆候が現れて来た時は、人特
有の科学技術をもって、必死にくい止める努力はされるであろう。ただ、人の持つ科学技
術の進歩は、人類の滅亡を早める可能性も秘めていることも事実である。
いずれにしても、現時点で滅亡のシナリオをはっきり描くことは不可能である。

ソメイヨシノの咲く神社

 ホームページへ  タイトル目次へ

                                                          ホームページヘ    

 タイトル目次へ  このページのトップヘ  前のページヘ  次のページヘ