南方熊楠その4 異常な記憶力と集中力・実行力の謎 

  大脳の奥底に左右対称的に一対の海馬という部分がある、それぞれが左側側頭葉、右側側頭葉に囲まれている。

海馬と側頭葉は互いに密接に関係している、記憶、聴覚、学習能力等に重要な役割を持ち、側頭葉てんかんにも深く係わっている。

海馬や側頭葉の病変により、側頭葉内に「てんかん性異常電気信号」が発生して側頭葉の機能が亢進され、特異な症状が現れる

ことがある。

          1、側頭葉てんかんの症状 

          2、人間離れした 

     記憶力

      集中力

       実行力

       思考力

3、常識はずれの行動・感覚 

       いわいる変人・奇人の類である

4、幻覚

5、情緒不安定

6、偏頭痛

 

医学的に「感覚・辺縁系過剰結合症候群(ゲシュヴィント症候群)」と呼ばれている。

 

 熊楠自身も常人と異なることはよく理解しており、脳に起因すると考え「死後脳を解剖して原因を解明してほしい」と

遺言を残していた。脳は摘出され、現在大阪大学に保管されている。

京都大学の精神科研究グループが最新のMRIでスキャンして調べた結果「左内側側頭葉の病変を認め、

てんかん性放電による左側側頭葉の機能亢進状態があり、天才的能力を発揮し、他方奇行が目立ったと解釈している」。

「感覚・辺縁系過剰結合症候群」の典型と言える病的状態であろう。熊楠は、顕花植物の観察や写生、写本に多くの時間を

費やしたのも、現れる幻覚や情緒不安定等の負の症状を抑えるためだったようで大変な努力をしていたのである。

 

 歴史的な天才・有名人に側頭葉てんかんを持つ人も多い。

岡山大学病院神経科 松本洋輔先生の「岡山大学病院てんかんセンター市民講座 2016213日」がインターネット

で公開されており、その中で「側頭葉てんかんをもった歴史的有名人は多い」と述べ、具体的人名をあげている。

     それによると   

         アレキサンダー大王  ユリウス・シーザー  ナポレオン

         ソクラテス  ブッダ(仏陀) マホメット  聖パウロ

         ドストイエフスキー  ルイス・キャロル  バイロン  ゴッホ

         ニュートン  パスカル  など

 

過去の人物の記録・記述あるいはミイラや人体の一部から傷病を推察・確定していく「病跡学」という学問がある。

このような学問の研究結果により、上記の人達を側頭葉てんかんと診断ししたのであろう。

 

 教祖や聖職者や僧が、厳しい修業中、神が現れ、お告げを頂きこれが教理となって新しい宗教が生まれた例が多い。

心身をぎりぎりの状態にまで追い込んだときに、それがきっかけとなって持っていたゲシュヴィント症候群の一種の発作が

起き「幻覚」が現れたと推察できる。

 

ルイス・キャロルはペンネームで、実名はチャールズ・ラウトウイッジ・ドジソン(Charles Lutwidge Dodgson

ラテン語に関連付けるとルイス・キャロル(Lewis Carroll)となるそうである。

記憶力抜群・成績抜群の天才、オクスフォード大学のクライスト・チャーチ・カレッジを成績首席で卒業した聖職者

でもあるが、同校で数学の教鞭をとる。多才で、英国の著名な数学者、論理学者、写真家、作家、詩人でもある。

オクスフォード大学で「てんかん」と診断され、名誉欲の強い彼にとって大変なショックを受けている。

「行列式の縮約 1866年」を始め多くの数学論文・論理学の論文を世に出している。オクスフォード大学数学教授と

「不思議の国のアリス」は全くかけ離れている。本人も同一人物と知れることに極度に嫌い、あらゆる手段で阻止をしていた、

「不思議の国のアリス」を発表してから26年後に、オクスフォード大学の自室から親しい信頼のおける友人に出した手紙で

次のように心情を伝えている、「自分がルイス・キャロルと知られることに激しい嫌悪感を抱いている』さらに

『このような本など書かなければ良かった思うこともある』と」。

この手紙がコレクターの手に渡ることも極度に恐れていたようである。結局彼の死後個人コレクターの手に渡り仔細が明らかに

なった。その後2014319日 ロンドンのオークションにかけられ、南カリフォルニア大学図書館が落札し、公開されている。

  

 熊楠とキャロルについて、傷病名は同じであるが症状は全く異なっている。キャロルは、社交性と強い自己顕示欲を持ち、

名誉・権威を重んじていた。熊楠はそのような事には一切関心がなく、自然体であった。

 

 

追記

 

1.海馬は「たつのおとしご」と読む、脳の海馬は「たつのおとしご」と似た形をしているのでこのような名がついたのだろう。

 

2.天才を超えた記憶能力はてんかん性異常放電による側頭葉の記憶回路の亢進と解釈されているが、非常に恐ろしく思うのは、

人工的に頭に電極をセットして(例えは、ヘルメットのような装置で、或いは心臓のペースメーカーのようなものを体内に

装着して)人工的な特殊な電気信号を側頭葉に与えれば、普通人でも再現できるのではないか容易に推察ができることである。

多分、すでにマウスなど使って実験が進められていると想像がつくし、人に電極付きのヘルメットを被せ、実験している

ことも十分に考えられる。脳のその他の機能葉にも電気信号による機能亢進、例えば運動機能などの能力増強訓練に応用さ

れるのではないかと、なんだかそら恐ろしい気がする。

                 

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